【業界激震】Native Instruments破産手続き!!マネーゲームに翻弄された歴史と今後の展望を徹底解説!

あまりにも衝撃的なニュースでした。
DTM界隈で誰もが知る数々の名作ソフトウェアを生み出してきたNative Instruments (以下、NI社)が、予備的破産手続きに入ったと報じられ私のTLはこのニュース一色になりました。
私は「まぁ、なんとなるでしょう」と楽観的に捉えていたのですが、ここに至るまでの経緯を調べていくと、そこには「マネーゲームの犠牲者」となった真のNIの姿が見えてきました。
実はNI社は2度も売り渡されていたのです。
率直な今の感想は「悔しい…」の一言に尽きます。
今回の記事では
現在までの時系列
今後の展望
ユーザーがすべきこと
上記を解説していきます。
NI社のこれまでの経緯
1996〜2016:信頼の黄金期
NI社は1996年にReaktorの開発を目的として創業され、2000年代に入ると次々と伝説的な製品を世に送り出します。
Battery:ドラム・パーカッションサンプラーとして絶大な人気。
Massive(2007年):ダブステップやEDMブームを支えた伝説的シンセ。
Traktor(2000年):デジタルDJ革命を起こした。
Maschine(2009年):ハードウェアとソフトウェアの完璧な融合。
この時のNI社は「独立した自由な開発」「ユーザーの声を反映するアップデート」「音楽の未来を感じさせる情熱」を確かに纏っており、企業としても健全な成長を辿っていました。
時代の風を掴み10年以上業界の王者として最先端をひた走り続けましたが、2010年代後半から少しずつ綻びが見え始めます。
・新製品の開発ペースが鈍化
・アップデートが遅い、または来ない
・競合他社の台頭
・4K/VST3などへの移行の遅さ
これらの不満が徐々に吹きこぼれ始めた時に、最初の大きな分岐点を迎えてしまいます。
2017〜2020:運命の分岐点「EMH Partners参入」
2017年にNI社はEMH Partnersという投資会社から巨額の投資を受けました。
この時点では、EMH Partnersは少数株主で、創業者たちはまだ会社の支配権を保持していました。
つまりNI社は「助けを求めていた」わけではなく、むしろ成長を加速させるためのパートナーシップだと考えていた訳です。


実際、売上60%増、月間アクティブユーザーは150万人に倍増と更なる成長を遂げた訳ですが、創業者主導・プロダクト中心の企業から投資会社主導の利益・成長率重視の企業へ変質したのを当時のユーザーは見逃しませんでした。
そして、2019年に1日で100人以上が解雇されるという事件が発生します。
「ベルリンとLAチーム間の対立」「サブスクリプション派 vs 従来製品派」などの内部崩壊と混乱が進む中、コロナ禍対策と業績向上のために翌年の2020年にEMH Partnersは更なる巨額の追加投資を行います。
このタイミングで会社の過半数所有権を達成し、実質的な支配権が創業者からEMH Partnersに移りました。
最初は、文化を守り共に成長を求めるパートナーだったはずなのに、ここから事態は急変します。
2021〜2024:新オーナーとLBOという「劇薬」
2021年1月、EMH Partnersは、NI社の過半数株式を、より大きな投資会社Francisco Partnersに売却します。
ここで用いられたのがLBO (レバレッジド・バイアウト)という手法で、私はここでマネーゲームの恐ろしさとNI社がここまで転落した原因を知ることとなりました。
買収者が自分の金を使わず、買収対象(NI社)の資産や将来の収益を担保に銀行から借金をして買い取る手法。
つまり、NI社は「自分を買い取った主人の借金を、自分の稼ぎで返済する」という地獄の無限ループに放り込まれたということです。
そうなると、利益は全て自身の借金の返済に回されるので、人件費や開発費などは後回し・コストカットとなります。
これが、ユーザーが指摘していた「製品の放置」「サポートの崩壊」の真の原因でした。
さらにiZotope、Plugin Alliance、Brainworxと言った有力企業を次々と買収してSoundwideという新ブランドを立ち上げました。


しかし、こうした背景を見てみるとユーザーのためではないことが今となっては分かります。ただ、Francisco Partnersが複数の会社をまとめて「時価総額」を釣り上げ、高値で売り抜けるための化粧に過ぎなかったということです。
シナジーを期待されていたものの、強引に統合を進めたことで、Native Accessのバグや不具合が止まらず混乱を極めます。
2024年にも大規模リストラ(開発者・サポート要員大量解雇)を行い、「サポート体制の崩壊」「製品開発の停滞」「約束の不履行」などにより内部崩壊と信頼の毀損の一途を辿っていきます。
LBOとは?
調べていくと、LBOというのは「投資会社に圧倒的に有利な仕組み」です。

LBOは「投資会社がノーリスクに近い形で、ハイリターンを狙うためのギャンブル」の手法です。
NIがどれだけ素晴らしいソフトを作っても、その利益はまず「自分を買うために作られた借金」の返済に消えます。
何故、LBOを受け入れたのか?
個人的には「救済の一手」としてであって欲しかったですが現実は、「経営側がそれを受け入れざるを得ない状況」に追い込まれたとき、救済の顔をしたLBOが成立するケースも多く、NI社はまさにそのグレーゾーンに位置していたと考えられます。
・成長鈍化
・ハード(Maschine / Kontrol)とソフトの収益モデル破綻
・サブスク転換の失敗
・開発リソースの分散
・iZotope / PA買収による統合コスト増
これらを抱えていたNI社は、
「単独では立て直せないが潰してしまう訳にはいかない」
「今の値段でもいいから買ってくれる所を探そう」
という魂胆があったのだろうと推測されます。
2025〜現在:救済失敗から破産手続き
2025年11月11日、EUは投資会社BridgepointとBain Capital Creditの2社が、Francisco PartnersからNIを共同買収するという通知を受領し、承認しました。
しかし、取引は完了せず、2026年1月27日、NIは予備的破産手続きに入ったという我々の知るニュースとなりました。
ここでのポイントは以下の通りです。
Francisco Partnersも売り抜けようとした
個人的に一番やるせないのが、結局NI社を駒にしてマネーゲームをしていたんだと言う現実です。
調べていく中でこのようなLBOは3〜5年の短期サイクルで売却益を得ると言うのがスタンダードらしく、劇薬とも言える投資形態です。
ドサっと資金を入れ、強引に成長させて、運良く劇薬が適合し生き残れればWin-Win。
劇薬に耐えられずに終わったとしても借金はNI社持ちなのでFrancisco Partnersはほぼダメージ無し。
こう書いてみるとアニメで悪の組織が強い手駒を作るために民間人を実験体として色々しちゃう、的なあのシーンが頭をよぎります。
思えば最初のオーナーであるEMH Partnersも4年で売却しているので、最初からその目論見だったのかもしれません。
結局のところ、よくあるLBOの常套パターンに組み込まれて、魔改造を施され心も体もボロボロになったのがNI社と言うことです。
新たな買い手が割に合わないと判断
何故、EUが承認したのに取引が完了していないのか?の答えは明快です。
割に合わないと判断したからでしょう。
・負債が大きすぎる
・収益の大幅な下方修正があった
・リスクがリターンを上回った
などの憶測はいくらでも立ちます。
しかし、それほどに内情は深刻なのかも知れません。
今後の展望
ここからは、「事業継続可能か」「どの資産をいくらで売却するか」を1〜3ヶ月で判断します。
各メディアで言われている通り、即座の清算と言うわけではないので、すぐに製品が使えなくなると言うことはありません。
ただ、ここから先の動きを我々ユーザーは注視していく必要があります。
切り売りの対象は?
個人的に最も可能性が高いと考えているのは、Plugin AllianceとiZotopeが最初に売却されるというシナリオです。


理由としては、下記の通り。
・独立性が高い: これらのブランドはNIのコアシステムと深く統合されていない
・後から入ってきた: 2021年〜2022年の買収で追加されたため、分離しやすい
・個別に価値がある: 単独でも十分な市場価値を持つ
・債務の軽減: これらを売却することで、NI本体の債務を減らせる
iZotopeのAI技術、PAの膨大なアナログモデリング資産は、他社から見れば非常に魅力的な「商品」でしょう。
逆に、Kontakt、Massive、Maschineなどのコアコンテンツはハード・ソフトの垣根をこえたシステムを構築しています。



特にKontaktは他のサードパーティメーカーの製品も多く関与しているし、NI社の根幹みたいなところがあるので、ここが切り売りされるというのは考えづらいです。
と言うよりも個人的に考えたくないような気持ちです。
万が一、買われたとしても、NI社の独立性を尊重し、クロスプラットフォーム開発を継続させてくれたらいいなと希望を持っています。
前述した、Plugin Alliance・iZotopeは何らかのライセンス変更やサブスクプランの変更などはあるかも知れません。
考えうるマルチエンディング
このニュースを知って、どんな所が買うんだろうか?と思いを巡らせていると、先日発表された「Fender Studio Pro」のことを思い出しました。

Fenderは2021年にPreSonusを買収し、5年間Studio Oneの開発を継続しており、長期的な開発支援を行ってきました。
「FenderはPreSonusを何か別のものにしたいのではなく、あるがままの姿で買収した」と言う当時の明確なビジョンが示す通り、大きな変化もなく、ここまできています。
また、2005年には、SteinbergをYamahaが買収しました。
当初こそ懸念されましたが、YamahaはSteinbergの独自性を尊重して、結果としてCubaseは業界標準を守り抜き、Windows/Mac両対応を維持し続けています。

別パターンですが、Cakewalkのパターンもありえます。

時系列をざっと話すと、
→2013年にGibsonがRolandから買収
→2017年にGibsonが開発終了を発表
→2018年にBandLab Technologiesが資産を購入
→無料DAWとして復活
と言う流れです。
一旦、開発が止まったとしても、再起をすると言うパターンはあり得ます。
そう言った意味でも音楽に愛のある所に引き取ってもらえるのが理想形ではあります。


個人的バッドエンディング
勿論、表面的にやばいケースというのはあります。
その1つは、製品開発が完全に凍結され、ライセンスが無効化されて、誰も使えなくなることです。
あって欲しくないと思っていますし、それは現状の製品・ブランド価値的にも考えづらいと考えています。
それよりも私が恐れているのは、Appleに買収され、Logic Pro専用になり、他のDAWで使えなくなる未来です。
Appleの囲い込み
Appleは、音楽ソフトウェア企業を買収して自社エコシステムに統合し、他のプラットフォームを切り捨ててきた過去を持っています。
2002年にはAppleがEmagicを買収し、その主力商品であったLogicを手に入れました。
そしてWindows版の開発は中止され、Logic ProとしてmacOS専用DAWに進化して今日まで至っています。
また、2015年にはCamel Audioを買収し人気のあったAlchemyシンセサイザー、サウンドライブラリ、エフェクトプラグインを手中にし、AlchemyはLogic Pro Xに統合され、現在も主要シンセとして使用されています。
SteinbergとYamahaの時にもHALionをCubase専用にしましたが、VST3版を作ることで他DAWとの互換性を残しています。

もし、iZotopeのRXやOzone、あるいはKONTAKTのエンジンがAppleに買収され、「これからはMacのLogic専用です。Windows版と他DAWへのVST供給は終了します」と言われたら……。


私たちができること
NIが誰の手に渡るか、サーバーがいつ止まるか、もはや誰にも分からない状態です。
「ある程度の猶予はある、製品は残る希望がある。」
とはいえ、今のうちにやっておくべき防御策について考えてみました。
・ステム(全トラック書き出し)の完全実施
Kontaktなどの音源トラックを使っている場合はWAVに書き出したりバウンス機能を使ってオーディオにしておく。
・インストーラーとライブラリの物理バックアップ
インストーラー(exe/dmg)、Kontaktライブラリ、購入シリアル、NIアカウント情報などを外付けストレージに保管したりスクショで残しておく。
この辺りでしょうか。
非常にめんどくさいですが自衛のために私もやろうと思います。
悔し過ぎる全貌
冒頭で述べた通り、このニュースは「悔しい」。
ずっと愛用してきたツールが、マネーゲームの犠牲になりました。
思えば、2017年のEMH Partnersから何かが変わってしまったのかも知れません。
実は、Avid(Pro Tools)やImage-Line (FL Studio)にも似たような資本が入っていて囲い込みも行われていますが、現時点では大きな問題にはなっていません。
改めて、パートナー選びの大事さを痛感します。
では、我々、音楽家のパートナーとはなんでしょうか?
愛用している楽器?
パソコンのソフトウェア?
バンドメンバー?
あるいはお客さん?
色々浮かびますが、私は「リスナーとしての自分」だと思います。
もう1人の自分を楽しませるために、自分が「これかっこいい!」と思えるために、手と耳と心を動かしながら作曲をしているように感じます。
確かにNI社は愛すべきツールです。
しかし、自分というパートナーの信頼を失わないために、これからも作り続ける使命があります。
今は、前述したような自衛をしつつ、せめてFenderやYamahaのような、音楽への愛がある企業に救われることを祈りながら今後の動きを注視していきましょう。
このブログ記事が、皆さんの音楽制作に役立つ情報を提供できることを願っています。
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