私が属する夫婦アコースティックデュオ「アバンdeモーダン」の新アルバム「歴史の残滓」がリリースとなりました。
1年5ヶ月ぶりのアルバムで10曲入りとなっています。
今回は久々のブログ執筆ということもあり、勘を取り戻しつつ各曲やアルバム名について想いを綴っていこうと思います。
「歴史の残滓」について
妻からの第一声は「どう読むの?」二声目は「どういう意味?」でした。
これは「ざんし」と読みます。
ざん‐し【残滓】
〘名〙 あとにのこったかす。のこりかす。ざんさい。〔稿本化学語彙(1900)〕
※戯作三昧(1917)〈芥川龍之介〉一五「ここにこそ『人生』は、あらゆるその残滓を洗って、まるで新しい鉱石のやうに、美しく作者の前に、輝いてゐるではないか」
のこり‐かす【残滓】
〘名〙
① 食べたあとに残るかす。食べ残し。
② 一般に、用に供されたあとに残る価値のないもの。のこりくず。
引用:コトバンク
とのことです。
元々はアルバムに収録されている「静寂と燃ゆ」という曲の仮タイトルでした。
いざ、10曲揃いアルバムタイトルを決めようと思った時に、そう言えばと掘り返したのが「歴史の残滓」でした。
プロアマ問わず、消費しきれないほど日夜リリースされる楽曲達。
淘汰されながら世の中に音楽が溢れかえっている昨今。
そんな世の中に私たちが放ったこのアルバムは、たとえ残りかすになってでも歴史に在って欲しい。
そして、聴いてくれた人たちの記憶や人生にどんなに小さくても残って欲しい、という願いを込めて名付けました。
自身の曲を「価値のないもの」と自虐的且つ虚無的に銘打つ感じも皮肉っぽく、私らしい感じがして気に入っています。
各曲について
1.新連載
アルバム最初の曲は爽やかなポップソングです。
アコギ2本・エレキ2本・シンセと音数は多いですが爽やかさを大事にして制作しました。
サビのメロディは2人で考えたのですが、それぞれの音域のギリギリを攻めてます。
攻めすぎて後悔してるぐらい攻めてます。
ですが、それ故に勢いのある表現が出来るメロディになりました。
「序章と呼ぶには平凡過ぎやしないか」という歌詞から始まるこの曲は「今日が漫画の1話目だったら、僕は怠惰に過ごすだろうか?」という問いから生まれました。
プロデューサー視点というか、YAZAWA的というか、もう一人の自分を内部に生み出す感覚があったのを覚えています。
歌詞全文(タップで表示)
序章と呼ぶには平凡過ぎやしないか
枕を抱いた 寝ぼけたまんま
新連載が今日から始まったんだ
捲ったページ セルフの啓示
こんな1話目じゃ明日に繋がらんぞ
勇気を出して 一歩前へ
色とりどりの困難や敗北が
待ってるんだ 怖くはないさ
退屈だった昨日はあらすじ未満のプロット
読み切りじゃ描けないほど胸踊る未来
この歌を 始まりの合図にして
誰よりも ドラマチックな続きを見たいのは私だ
巻頭カラーで開いた世界
何か昨日と違う 波乱の前触れ
海賊も探偵もいないけど
読み進める手は止まらない
読者は私
この声を 勝ち鬨の合図にして
大丈夫 私も立派な主役
この歌を 始まりの合図にして
誰よりも ドラマチックな続きを見たいのは私だ
私の知る主人公の1話目は往々にして大きな事件に巻き込まれたり、大切な物を取り返しに行く決意をしたりします。
じゃないと2話目に読者を引き込めないし、話が展開していかないからです。
そう思うと、朝起きてからのルーティンワークも何か違うことしてみようとか、ダラダラせずに2話目に繋がる伏線を仕掛けようという気持ちになれました。
退屈だった昨日はあらすじ未満のプロット
読み切りじゃ描けないほど胸踊る未来
どれだけ怠惰に過ごしていたとしても昨日までの日常は今日以降の物語とは別物。
これから何百話と続いていく物語の第一話目である。
どんな夢物語だとしても妄想さえできれば、それはいずれ「計画」になる。
そんな内容を上手く漫画用語で表現できました。
私はこの人生という物語の唯一の「主人公」であり、唯一の「読者」である。
このアルバムの1ページ目を飾るに相応しい曲になったと思います。
2.徒花
元々はボカコレに参加するためボカロで作った曲でしたが、アバンdeモーダンとしての再収録リリースとなります。
冒頭のアコギのアルペジオが曲のメインテーマとなっています。
思いついた時は我ながら…とニヤついていました。
ビートやウワモノのシンセ、ボーカルを変調させてみたりと実験的になりましたがとてもクールでかっこいい曲になったと思います。
歌詞全文
徒花ならただ華々しく散る性か
鈍の刀 空のままの鞘は腹の虫を鳴かせた
まだ数多の彼方は見えない
泡沫は儚いままで
戯れなんかで花びらが開くものか
さらばう運命はまた柔肌に枯れた皺を重ねてた
奏でたララバイたちを糾う
あなたがいれば
咲くだけマシじゃないの
開かぬ蕾は横目に
飽く前に散ればこそ華と呼ばれた
咲くため雨に打たれ
散るため風に戦がされ
ひとひらずつ愛して
咲くしか出来ないあたしを
徒花ならただ華々しく散る性か
鈍の刀 空のままの鞘は腹の虫を鳴かす
たらればを嘲笑う痣だらけの革命家
置いてかれる 老いて枯れる 赤茶けた路傍の花
紙纏頭集めはややもすれば負け戦
憚られるなら根を下ろすこともあるまい
玉響の徒花に心揺らされて刹那絆されて
花筵にさんざめく玉虫色の弦歌 届けて
徒花ならただ華々しく散る性か
鈍の刀 空のままの鞘は腹の虫を鳴かせた
まだ数多の彼方は見えない
泡沫は儚いままで
戯れなんかで花びらが開くものか
さらばう運命はまた柔肌に枯れた皺を重ねてた
奏でたララバイたちを糾う
馥郁の陽射しはすぐそこに
歌詞はコーラスの部分以外は、母音が「あ」の音が多くなるように作りました。
徒花(adabana)や鈍(namakura)で押韻というかグルーブが出るようにしてます。
全部母音を統一してやろうかとも思いましたがそこまでは叶わず…。
またこの歌詞の裏テーマは「才能」です。
アーティストは花のようなもので咲き誇る花もあれば散ったり枯れたり。
中には咲くことも叶わずそのまま土中…という世界です。
徒花ならただ華々しく散る性か
鈍の刀 空のままの鞘は腹の虫を鳴かせた
まだ数多の彼方は見えない
泡沫は儚いままで
才能という刀を握って抜刀したなら、自身の才能だけで戦い続けなければならない日々。
たとえ、自分の才能がなまくらであったとしても、鞘に収めることはせず、ただ花開くのを待ち刀を振り続ける、という心情を書いています。
徒花とは、咲いても実を付けない花の事を指します。
あまり良い意味で使われない言葉ですが、咲いてもすぐに散る花としての意味も持ちそれは「桜」の事を指す場合が多いようです。
日本人が大好きな「桜」に徒花という辛辣な別称を与えている点が面白いなと思い作詞のイメージを膨らませました。
最後の歌詞である「馥郁の日差しはすぐそこに」で今は夜、もしくは影だが、じきに日が差すというハッピーエンドの匂わせも出来ました。
私の書く詞は難解と言われがちですが、これは群を抜いて難解です。
裏テーマも分かりにくく、共感とはやや遠い歌詞になりましたが、個人的にはすごくお気に入りの歌詞です。
3.おりがみ
2023年4月にYouTubeで公開した曲です。
こちらは元々「無色透名祭」というボカロ曲のコンテストに参加した曲です。
自分で歌う気満々で作ったので、最近のライブでもよく演奏しています。
ジャジーな雰囲気で、ピアニカ・ブラス・ギター・ベースと丁寧に演奏・打ち込みが出来てバランス感のいい曲になりました。
歌詞全文
何を作ってたのか分からないまま
山折り谷折りを積み重ねた
よれたオレンジの折り紙は
震える指先を待ち侘びてた
このまま誰かの言う通り
折り目を付けていったとして
綺麗なヒコーキが出来たとして
僕はそれを愛せるかな
それは高く羽ばたけるのかな
怖くても破れないように
少しずつ元に戻してみよう
僕が作りたいように
何度でもやり直してみよう
付けた折り目は戻らないけど
それも全部全部愛するから
本当は鶴が作りたかった
折り方も曖昧だけど
指先を止めなければ
きっと羽ばたける
弱そうで不恰好な
不思議な折り目のある鶴を
僕は愛していよう 愛させてくれよ
丸めて捨てなければ
少しずつ姿を見せてくれる
僕が作りたいように
何度でもやり直してみよう
付けた折り目は戻らないけど
それも全部全部愛したから
歌詞の内容は「いつからでも人生はやり直せる」ということです。
一言でまとめてしまえば月並みな内容ですが、実感を伴った血の通った歌詞です。
数年前に会社員を辞める時に書いたnoteが原案となっています。
今、読んでも胸が熱く、苦しくなる文章です。
「作りたいものを作る、やりたいことをやる。」
今の時代に溢れている甘言ですが、真摯に自分の欲望や夢を追うと「もっと早くこうしとけば…」という後悔が必ず付きまといます。
私の実感として、過去を全部受け止めた時に初めて新たな一歩を踏み出せると思うのです。
会社員時代が無駄だった、意味の無いことにお金を使った。
色んな後悔はあれど、それらは自分だけの「折り線」になります。
「失敗の数は折り線の数。」
何を掛け算するかで見違えるほどの才能を発現できる現代社会において、大事にしていきたい歌詞です。
4.静寂と燃ゆ
アルバムリリースに先駆けてYouTubeに公開した楽曲です。
また、前述したように「歴史の残滓」という旧題で制作していました。
当ブログでも紹介している生成系AIを使って作ったMVは会心の出来となりました。
楽曲イメージとしては久石譲のような、壮大で美麗な曲を目指しました。
ほぼ打ち込みで作っており、アコギも入っていますが、他の曲のようにメインではなく彩り程度に抑えています。
ハモリも単調に追従するだけでなく、二声の距離を変えながらハモれるように工夫しました。また、バイオリンの表現にはこだわっており、切なくも美しいメロディを裏で鳴らしています。
歌詞全文
天地にただ抱かれたまま
遥か昔の光を見た
謗りもせず泣く声と消えゆく星は似ている
ここにいるよと生きる為声を上げたのだろう
草木の纏う風や露らも
螺旋を紡ぐ防人たち
素知らぬ秩序 尊大な調和
あるがままは美徳じゃなく
諦観に似た世の律動に倣う覚悟の証左
代々に瞬く星など無く
幕間にも満たない刹那で
ここにいるよと生きる為声を上げたのだろう
命燃やすのだろう
テーマは「宇宙」です。
メロディとトラックを作りながら浮かんだのが「宇宙」でした。
その中で、人間的な安易な心情よりも、もっと俯瞰した視点(人ならざるもの)で大らかに歌う方がいいなと思ったのでメッセージ性はあまり入れずに歌詞を作りました。
その際に3日間ほどYouTubeで宇宙や地球の歴史を見まくりました。中には5時間を超えるような動画もありましたが、見れば見るほど「奇跡の星」である地球に惹かれていったのを覚えています。
広大な宇宙に浮かぶ小さな地球、そこで起こる奇跡の日常に感謝すると共に、宇宙や地球は誰の為にも生きていないという現実をまざまざと見ました。
あるがままは美徳じゃなく
諦観に似た世の律動に倣う覚悟の証左
地球温暖化になろうとも、地球や宇宙はただ生きていく。
自然が壊されても怒りもせず、自然が回復しても感謝しない。
隕石が落ちようが、氷河期になろうが、ただ、黙って生きていく。
残酷というか、冷徹というか、ある種の潔さや覚悟を感じて「あるがまま」という言葉を私なりに再解釈した形になりました。
5.三行半
歪んだドラムと無骨なギターで暗い印象の曲になりました。
心の中で沸々と煮えたぎった心情、ドロドロした淀んだ空気感を表現しています。
また、終盤には早口で捲し立てるようなパートを入れてみました。
妻に早口で歌って欲しいという私個人の願いによって生まれた挑戦的な曲です。
歌詞全文
揺れる今と来たる明日の狭間でただ頭を垂れている
立てた爪は彷徨いながら弱った背中をまだ待っている
遥か彼方違えた旅路今となっては嗚呼にべもなし
数多の枝葉 伏せた視線 寂しそうに揺れる秋
気合いを入れろよ己が為
世の為人の為言わぬ由
己が命に三行半
小さく片頬を上げるだけ
いつか去ぬと知ってはいるがそれはきっと今日じゃない
栄枯盛衰酔いもせずに 素面で峠を下るだけ
寺銭投げつけ歌い問うはかくや語りき泡沫の
弾く水面 揺れる鼓膜 見送る先はいずこまで
気合いを入れろよ己が為
世の為人の為言わぬ由
己が命に三行半
泥と恥に塗れた愚か者
命を燃やせよ馬鹿が為
あぶくと知ってなお生意気な
己が命に三行半
身請けた物好き 朽つるまで
孤独に焼かれて窶すまで
丁半五分なら安いものただ容易く何千何万何億賽追うめくらの愚か者
人間万事塞翁が馬なら一般人には才能は無駄?
管巻く暇無く転がすのさまだサイコロ左手筆右手
少しだけ長めの三行半
「三行半」とは夫婦デュオにあるまじき題名ですが一応意味を載せておきます。
みくだり‐はん【三▽行半/三下り半】
《三行半に書く習慣から》江戸時代、夫から妻への離縁状の俗称。離縁する旨と、妻の再婚を許可する旨を書いたもの。転じて、離縁すること。「三行半を突きつける」
引用:コトバンク
もちろん、妻と離縁するための曲ではなく、私自身の人生に別れを告げる曲です。
もう少し詳しく言うと「表現者として生きる覚悟を決めた」曲です。
歌詞中に登場する「己が命に三行半」とは、会社員として平和に生きるはずだった人生・世界線に別れを告げると言うこと。そして、他の誰でもなく自分のためだけに命を使い切ろうとするエゴ強めの歌詞です。
丁半五分なら安いものただ容易く何千何万何億賽追うめくらの愚か者
人間万事塞翁が馬なら一般人には才能は無駄?
管巻く暇無く転がすのさまだサイコロ左手筆右手
少しだけ長めの三行半
世の中で結果を出して陽の目を見る人なんてほんの一握りだと聞いていますし、知っています。
そう考えると丁半博打のように50%の確率で勝てるなら容易い勝負だと、ふと思いました。
しかし、勝つためにはサイコロを振り続けるしかなくSNSでバズを狙い、曲を作り、歌を歌うぞという決意の歌になります。
最後に「少しだけ長めの三行半」とあるように、少し未練がましく名残惜しそうにしている雰囲気も表現したのですが、いかがでしたでしょうか?
6.口笛を吹きながら
妻の初作詞作品です。
また要望として、「スリーフィンガー奏法で軽快な作風」&「口笛を吹きたい」とのことだったのでアレンジも音数少なめでアコースティックな雰囲気を残しました。
思えば、このようなカントリーっぽいハネた曲調は私自身多用します。
聴いてて心踊るというかワクワクする雰囲気はアコースティックギターによく合う印象です。
歌詞全文
いつから眠っていたんだろう
お腹にギターは乗ったまま
真夜中スーツのまま弾いた
縋るように覚えた流行りの歌
あの頃なりに楽しかったと思う
夢中で埋めてた胸の穴
夢を託していた
見えない明日も
私なら大丈夫って
歩き出していけそうよ
前さえ向いてればいつかの
私が救ってくれるから
今は口笛を吹きながら
遠回りしたけど
それで良かったと思う
仕事帰り 空っぽの部屋
1人で歌っていた夜が
こんなに繋がっていた
今もほら
空の明るさに気付けてほんと良かった
踏み出せて良かった
人を好きになれてる自分が
ちょっと好きになれた気がした
見えない明日も
私なら大丈夫って
笑っていられそうよ
変わりばえしない毎日も
今は口笛を吹きながら
今は口笛を吹きながら
歌詞は私が手直しした部分もありますが面影は十分に残しています。
最初に受け取った時には「過去や内面がダーク」&「今周りに居てくれる人に最大限の感謝を」といった印象を受けました。
遠回りしたけど
それで良かったと思う
仕事帰り 空っぽの部屋
1人で歌っていた夜が
こんなに繋がっていた
今もほら
不安や鬱屈を抱えやすい彼女なりに、足掻いて模索してきた結果が今に繋がった。
ライバーが終着点では無いけれど、今が充実していて未来に希望や勇気が溢れている。
3曲目の「おりがみ」にも通ずるような葛藤する心情が随所に出てきます。
仕事が終わり帰宅するやいなやギターと共に歌を歌い自分の存在を示していた過去。
夢と現実を往復しながら、その真夜中のひと時だけは生きている実感がした。
何者でもなかった自分が、人前で歌を歌い、たくさんの人が喜んでくれる。
そこには驕りや虚栄などなく純粋な感謝がある。
私自身とても共感する1曲になりました。
7.うるせーよ
私がソロで活動していた時に書いた曲の復刻版です。
YouTubeにも載せていますがなんと4年前の曲…。
光陰矢の如しとはまさにこの事と慄いています。
当時DTMを始めたばかりでバンドも組んだことがなく手探りで作った曲でしたが、今回、満を持してリメイクできたと思います。エレキギターを弾き直し、ドラムも演奏可能なパターンに組み替えて多少耳心地も良くなったのかなと手前味噌ながら思います。
配信の中でも歌うことがありますが、「聴いてるとスッキリする」といった声をもらいます。嫌なことがあった時に大きな声で「うるせー!」と跳ね飛ばしている感じが良いのでしょう。
歌詞全文
等身大の飾らない歌詞 我が物顔のおしゃれなコード
考えれば考えるほど良い曲なんて分からないよ
ありきたりだと言われないように毎度夜な夜な百人組手
「さよなら」だけ「あいしてる」だけ伝えるのにも遠回りをして
こんな歌なんかじゃ取り合ってくれないんでしょ
うるせー 叫び足んねぇな
うるせー これが良いんだろ?
うるせー 体揺らしてんじゃん
うるせー
甘い声とかセブンスだとか お生憎様 知らん顔して
音楽理論 起承転結 お生憎様 呪わないでよ
ねぇ 疼く掌で膝を打って2と4で ねぇ
だっせー歌になったって
でっけー愛を込めて
たっけーキーじゃないかって?
うるせー
うるせー 叫び足んねぇな
うるせー 何を歌いたい?
うるせー 自信しかないわ
うるせー 頭振ってんじゃん
うるせー 手鳴らしてんじゃん
うるせー これで決まりだな
うるせー
改めて歌詞を見てみると、なんと節操のないことか…と苦笑してしまいます。
しかし、このぐらい衝動的な歌詞でもキャッチーに聞こえるので不思議です。
甘い声とかセブンスだとか お生憎様 知らん顔して
音楽理論 起承転結 お生憎様 呪わないでよ
ねぇ 疼く掌で膝を打って2と4で ねぇ
そもそもこの曲を作ったのは、昨今の楽曲は難しいテンションコードや激しい転調がザラに組み込まれており、「さもありなん」という雰囲気を感じたからです。
また、当時出演していたライブハウスで、ステージにいる私に送ってきた「絶対ノってやらんぞ!」という他の出演者の穿った目線に対して一石を投じた作品でもあります。
今はそんな事ありませんが、単純に曲を楽しんで、曲が良ければノればいいじゃないか!という叫びを表現しました。
以前配信で質問があったのですが、「疼く掌で膝を打って2と4で」の部分の意味は、1拍2拍…の裏拍部分を意味しています。
要するに、ノリノリで手拍子をちょーだいな!という願望でした。
8.おやすみ
こちらも「静寂と燃ゆ」と同様に、先駆けてYouTubeで公開した楽曲です。
アニメ調のMVもAIで制作して優しい歌詞の世界観を表現できたと思います。
「がんばりやさん」という自作曲があるのですが、それを超えるような曲をどうしても作りたくて優しく寄り添えるような歌詞や編曲を心がけました。
歌詞全文
黒くなる心と白くなりだした窓の外
ぐるぐるかき混ぜて吹きこぼれたのはため息か涙
些細な約束(わがまま)もいつも通りの習慣も
嫌いなあの人も弱い私さえも
全部ひとりで守ってきた 守ってきた
強がる私を私は嫌いなんだけど
誰かには好きでいてほしいなんて
勝手(わがまま)だよな
もういいや おやすみ
誰も傷付けないし 誰も気付かない私だけの嘘
誰かのための強がりが いつの間にか当たり前になって
少しずつ削れていく
強がる私を私は嫌いなんだけど
誰かには好きでいてほしいなんて
勝手(わがまま)だよな
強くなるには優しすぎて
優しくなるには弱すぎた
こんな私をどこから愛そうか
もういいや おやすみ 灰色のままおやすみ
この歌詞のテーマは「強がり」です。
私自身「強がる」という感情があまり理解できませんでした。勿論そのメカニズムや感情は知っているのですが、私自身はあまり強がらずすぐに根を上げるタイプ(?)なので、このままでは良い歌詞が書けないと感じました。
なので、配信の中でリスナーさんに質問したり、妻に「この歌詞共感できる?」といちいち尋ねて完成させた次第です。
面白かったのは、男性と女性では「強がる」に対するエピソードや共感ポイントが違うと言う点でした。ここで話すにはやや長くなりそうなのでまた別の機会に。
黒くなる心と白くなりだした窓の外
ぐるぐるかき混ぜて吹きこぼれたのはため息か涙
〜〜灰色のままおやすみ
サビの歌詞もめちゃくちゃお気に入りなのですが、より好きな部分を抜粋します。
時間の経過と悩みの解決度が反比例していく様。
白と黒が混ざって灰色のまま考えるのをやめて寝る様。
歌詞のギミックが最初と最後で繋がる感じが、我ながらよく出来たなぁと思います。
この歌詞を書くにあたり、脳裏によぎった人が何人もいます。
聴き取りの中で「強がらなければ心が折れてしまうような弱い自分」と評している言葉もありましたが、それは強がりではなくもはやその人が持つ「強さ」そのものなのでは…?と無粋ながら感じてしまいました。
9.螺旋階段
アバンdeモーダン初のバースデーソングです。
この曲が出来てからは、配信内で誕生日を迎えられた方にこの曲を曲を贈らせて頂いています。
アコースティック主体でアバダンらしさ溢れる可愛らしい曲になったと思います。
歌詞全文
同じ数字の羅列から始まる
螺旋階段を君は登る
1年に1度のこの日を僕といてくれてありがとう
お望みならばおかわりもどうぞ
大好きな君に
ハッピーバースデートゥーユー
1段だけじゃ景色はそうそう変わらない
365段登ればきっと違うものが見えるよ
何もしなくても時は進む
ベルトコンベアーはいやだ
どうせなら自分の足で少しだけ胸を張って
同じ数字の羅列から始まる
螺旋階段を君は登る
1年に1度のこの日を僕といてくれてありがとう
お望みならばおかわりもどうぞ
大好きな君に
ハッピーバースデートゥーユー
苦しいとか虚しいとか色々あるとは思うけど
君の幸せな1年を心から願ってる人がいること忘れないで
例えば僕のこととか
同じ数字の羅列から始まる
螺旋階段を君は登る
1年に1度のこの日を僕といてくれてありがとう
お望みならばおかわりもどうぞ
大好きな君に
ハッピーバースデートゥーユー
同じ数字の羅列から始まる
螺旋階段を君は登る
1年に1度のこの日を僕といてくれてありがとう
お望みならばおかわりもどうぞ
大好きな君に
ハッピーバースデートゥーユー
やはりサビの歌詞が一番お気に入りです。
「人生は螺旋階段みたいだなぁ」と安直に思いついたのが始まりなのですが、考えれば考えるほど言い得て妙かも知れない!とテンションが上がりサクサクと制作できました。
私の誕生日は4月19日なので、時計や車のナンバーなどで「419」と言う数字を見かけるとつい目で追ってしまいます。
しかし、きっと他の人にはただの数字の羅列でしかないと思うはずです。
そんな自分だけのラッキーナンバーは1年に1度巡ってきます。
去年と同じ日付ではあるけれど、年齢や環境、性格など去年とは必ず何かが違っています。何か劇的な変化ではなくとも、1日ずつ歩んできた日々は自分の何かを良くも悪くも変えています。
人生はどこか直線的な時系列で進んでいくと思っていました。
しかし螺旋状に登っていくと考えれば日々の足取りが心なしか軽くなった気がします。
ただ年齢を重ねただけで何にも変わっていない、と思うこと勿れ。
365日生き抜いてまたここに戻って来れた。
しかも去年より高い位置に。
10.ひよこもはばたく夢を見る
「歴史の残滓」を締めくくる10曲目は感謝ソングです。
めちゃくちゃ自信作です。
ポコチャではお馴染みで配信の最後にいつも歌っています。
既にYouTubeで公開されていて、MVも配信中の様子を映しており、我ながらとてもグッとくる仕上がりになりました。
歌詞のテーマは「感謝」です。
この曲ができるまでは別のカバー曲を歌っていましたが、ありがとうが溢れ過ぎて伝えきれないと感じたので自分たちで作ることにしました。
歌詞全文
手を引かれ背中押され 思えば遠くまで来たんだな
遥か先は霞んだまま でも今日が幸せです
思うような歌が歌えなくて
思うような日々を歩めなくて
瞼を腫らして掻きむしった
それでも明日を諦めたくないのは
君があの日私を見つけてくれたから
ありがとうって君に伝えたいのに
何でもないよって誤魔化すのは
言葉じゃ足りないと知りながら
それでも言葉を探してるから
今日のこの日をありがとう
こんな私なんかにって言えば
怒られてしまいそうだから
こんな私なりの愛を ひとつひとつ訥々と
ありがとうって君に伝えたいのに
何を今更って笑われそうで
私に何が出来る?何を返す?
気付けば爪弾くギターの音
ありがとうって君に伝えたいから
ただ黙って頷いてて
言葉じゃ足りないと知りながら
ありったけの気持ちを受け取って
今日のこの日をありがとう
たくさんのライバーがいる中で、見つけてくれて、応援してくれて、本当にありがとう。
大変で辛いこともあるけれど、みんながいてくれるから今日も頑張れたよ。
配信というのは、ライバーとリスナーの距離がとても近くなります。
だからこそ、素直に感謝を伝えるのが少し照れ臭かったりもします。
それほどまでに濃密な時間を共に過ごしてくれているみんなに感謝をどうにかして伝えようとする心情を全編に渡り表現できたと思います。
こんな私なんかにって言えば
怒られてしまいそうだから
こんな私なりの愛を ひとつひとつ訥々と
リスナーさんに褒めて頂いた一節をここでは抜粋します。
「ひとつひとつ訥々と」が溢れる気持ちを言葉を選びながら丁寧に伝えようとする様を完璧に表している!的なお言葉だったと思います。(全然違ったらすいません)
どんな表現者も最初は「こんな私なんかに…」と恐縮してしまいがちです。
けれど、応援してくれた人に報いたい。だからちゃんと愛と感謝を伝える。そして活動に励む、の順番でより表現者として磨かれていくように思います。
たくさんの応援の中で形を成していく「アバンdeモーダン」という生命体は私たちの手を離れ、私たち自身でさえもその細胞の一部と化しています。
実社会では到底出会えなかった人たちと「高速且つ膨大に出会って別れることが出来てしまう現代」に於いて、1秒でも長く、1曲でも多く、歌・体験・感情・人生を共有出来る人がいてくれることに改めて感謝します。
まとめ
「歴史の残滓」ライナーノーツを書いてみて、こーゆうのも良いもんだなと素直に思いました。
各曲の歌詞も含めたら12,000文字を超える超大作になりました。
完成から約1か月が経ち、各曲が出来上がった瞬間には違う感情だったかも知れないし、5年後に同じ感情を持つとも限りませんが、今この瞬間を切り取るには充分な内容だと思います。
それぞれの楽曲に産む苦しみと喜びがありました。
それは私一人の中で完結する感情でしたが、これ以降の感情は全て受け手がいてくれてこそ産まれるものばかりです。
良い曲だね、という賛辞や共感。
話題にならない…という受け手不在の苦しみ。
演奏した時にこの曲キタ!という興奮や一体感。
五感を使って過去に摂取してきたありとあらゆるものの結晶がこのアルバムです。
私達は作曲・編曲・レコーディング・ミックスが自分たちで完結できる分、他の人より曲を出すスピードが速い方かもしれません。
しかし、それはシステム上の話であって、実際に制作していくには色んな感情やアイデアが必要になってきます。
10曲を絞り出して、まさに残滓となった私に何が残っているのか。
今何を渇望してこれから何を得て自身の体を潤して満たしていくのか。
そしてどんな曲たちをまた絞り出すのか、私自身とても楽しみです。