誰もが頭を抱えるボーカルのミックス作業。
録音環境から始まり、素材の下処理からオケに埋もれない力強い声の為のエフェクト処理。
環境と道具さえそろえばそれで良いのかというとそうではなく、ここに経験や技術や知識が必要になってくるという何とも初心者泣かせの行程こそが「ボーカルミックス」です。
私自身も色んなプラグインを買い漁ってきて経験もたまりそれなりに出来るようになっては来ましたがやはりいつまでも苦心をする部分でもあります。
そんな中、めちゃくちゃ最高な製品がこの度リリースされました。
それがPlusar Audio「Vocal Studio」です。

使ってみてのあまりの高品質さに驚き、急いで記事にしています。
御他聞に漏れず今回もマニュアルを熟読してきましたので製品の使い方やレビューをしていきます。
ボーカルミックスに悩む人の手助けになるプラグインなのでぜひ最後までご覧ください。
Plusar Audio「Vocal Studio」
Plusar Audioと言えば「1178」や「Mu」と言ったアナログ機材をモデリングしたハイエンドなプラグインメーカーです。


ここが満を持して出してきた新製品ですので期待せずにはいられません。

位置付けとしては「マルチボーカルプロセッサー」で様々な機能がグッと凝縮されておりほとんどのエフェクターがワンノブ仕様となっています。
私自身「ワンノブでコンプとか使えんの?」と思っていましたが、使っていく中で非常にいい塩梅で調整がなされていくのを実感しました。
もっと深くまで追い込みたい人や使っていく中で不満が出ればそのエフェクトだけをバイパスにすることも出来るのでお手持ちのプラグインで代替するのもありです。
使い方解説~上段セクション~

SENSITIVITY
まず一番最初に触らなくてはいけないのが「SENSITIVITY」の部分です。
ここは感度量を調節する場所です。
インプット量の調節と置き換えても良いかも知れません。
後続するエフェクト達の力を発揮しやすい最適な音量にここで設定します。
「GOOD」と書かれた範囲内に緑のライトが収まるようにノブを調節するのですが、LEARNボタンを押せば自動で設定してくれます。
曲のセクションごとにボーカルの音量が変わると思うのでここはトラック分けをしてそれぞれにプラグインを使用した方が良いかも知れません。
DRIVE
サチュレーション的なセクションです。
3タイプが用意されており、周波数の変化や倍音特性を見ていきます。
SOLID-STATE
英国のクラス A トランジスタ プリアンプの特徴的なサウンドとの事なので、Neve系のモデリングでしょう。


周波数特性に関して、このプラグインはDRIVEが0%となっていても周波数特性が変化します。
このSOLID-STATEに関してはかなりフラットで5KHzぐらいから少し伸びてきています。
TUBE
五極管型真空管プリアンプを再現した音となっており温かみのある音です。


奇数倍音が分かりやすく発生していることと、ボーカルの芯となる中低域がふっくらと膨らんでいます。
GERMANIUM
「象徴的なスプリングリバーブの入力に見られるようなゲルマニウムトランジスタプリアンプ」とのことで、ゲルマニウムと聞くとChandler Limited(チャンドラー・リミテッド)を想起してしまいます。


なかなかに独特なハイ下がりの周波数特性を持っていますが、個人的には全然そう聴こえません。
むしろ一番スッキリして聴こえて非常に好みです。
DE-ESS・GATE・COMPRESS
名前の通り、ディエッサー・ゲート・コンプレッサーのダイナミクスセクションです。
マニュアルにも「従来、このタイプのエフェクトには複数の調整が必要でしたが、Vocal Studio では 1 回の調整のみを必要とする高度なアルゴリズムが採用されており、高速かつ効率的な処理が可能になります」とあります。
つまり、うちなら色んなパラメーターを調整しなくてもワンノブで完璧に仕上げることが出来るよ!という何とも頼もしい言葉です。
コンプレッサーセクションには3つのタイプがあります。
NATURAL
1176に代表されるFETタイプのコンプレッサーで自然なサウンドを提供。
MODERN
NATURALよりもアタックが早くなって強めの圧縮がかかります。
それでも「現代的な制作」に適しているの言葉通り一番オールマイティな感じです。
GRITTY
ミックスの中でも負けないアグレッシブな圧縮をします。
声のキャラクターにも少し色付けされてすこしハイが上がる印象です。

ゲインリダクション量は周りのメーターで確認することが出来ます。
そしてめちゃくちゃ大事なのですが、このメーターは0~-24dBの範囲で表示するので1メモリが1dBじゃないということです。
つまり、目算で確認しつつ自分の耳で調整する必要があります。
これが何だか気に入ってしまいました。
あいまいにこのぐらい圧縮しているというぼんやりした指標があると気楽に自分の耳と相談しながらミックスできるという自覚が湧きました。
使い方解説~中段セクション~
EQ

見た目通り普通のEQセクションですが、プリセットも用意されています。
EQ AMOUNTは通常100%に設定されていて、全体的に少し弱めたいなどの調整を行う時に使います。
しかし通常は100%のままでEQの方をいじる方が慣れた方にとっては楽なような気がします。
FOCUS
特定の周波数に重みづけをするダイナミックEQです。
Air : 10 kHz 以上の周波数を強調し、明瞭さと息遣いの感覚を演出します。
Edge: 1〜2 kHz の範囲をブーストして、奥まったボーカルの存在感を高めます。
Presence: 4〜5 kHz 付近の周波数を強調して、より明瞭な発音を実現します。
FOCUSのノブにカーソルを合わせると青色のEQが表示されます。
前述した通り、ダイナミックEQなので過度に音量が上がると音量を下げる仕組みになっています。
つまり、声の明瞭感を高めつつ、耳に痛い部分や、過度な処理になりそうになったら音量を下げてくれる優れ機能というわけです。
また設定されている周波数もちょうどいいツボを押さえてくれていて難しいダイナミックEQの調整をワンノブで行えるので非常に重宝する機能だと思います。

そしてEQ表示で高域がたまに赤くなることがありますが、これはディエッサーが処理をしてくれている部分を指します。
こういう痒い所に手が届くような機能は本当にありがたいです。
使い方解説~下段セクション~
SPECIAL FX
ここではコーラスやオクターブなどの効果を付けることが出来ます。
原音ごと変えてしまうので、やや調整は難しいですがうまく使えば声の広がりや厚みを出すことが出来ます。
上記では、FXを100%に設定しているのでだいぶ過剰にかかっていますが、「Wide Stereo」などを15%ぐらいでうっすらかけるのが私は好みでした。
人工的なステレオ音を生成してボーカルに広がりを与える。
Thick Octave
1 オクターブ下の音声を追加して低音をブーストして迫力を与える。
Wide Octave
上記のWide版。広がりもさらに付与。
Soft Breath
ささやくような高域の特殊効果を与える。
HF Whisper
Soft Breathと同じように高域に特殊効果を与えて明瞭感や声の近さを高める。
Wide Whisper
上記のWide版。
Classic Chorus
コーラス効果で音の広がりを与える。
Phasy Motion
フェイザーのような効果で変調していく効果を与える。
Wide Movement
上記のWide版。
Breathy Octave
前述したThick OctaveとHF Whisperを合わせた効果を与える。
Ultra Large
上記のWide版。
DELAY

このディレイセクションでは全部で9つのモードが用意されていますが、3つのディレイモードと3つの音質タイプという組み合わせになっています。

・ディレイモード
スラップバック:リピートがほとんどない短いディレイで声の厚みを補強できます。
ピンポン: 左右交互に繰り返すステレオディレイでよく使われています。
ワイド: 左右の繰り返し時間が異なるディレイで、よりワイドな音像にすることが出来ます。
・音質タイプ
Modern:非常にクリーンで歪みも無いまっさらなタイプ。
Tape : 磁気テープディレイにインスピレーションを得た、より温かみのあるディレイです。
Disk : 同社の別製品にもあるEchorec タイプにインスピレーションを受けた音色です。

曲調にもよるのですが、個人的には「Modern Wide」か「Disk Wide」が好みでした。
またプリセットを覗いてみると、ディレイだけを適用したものも用意されていたので何気にこのプラグインの美味しいところなのかもしれません。
REVERB


ホール・プレート・スプリング・チャンバー・ゲートなどメインどころは網羅されたリバーブセクションです。
ここは正直、手持ちのリバーブでも十分なんじゃないか?とも思うところですがそうとも言い切れないほどの品質でした。
個人的にはプレート系とEpic Hallが好みなのですが、他のトラックとの混ざり具合や残響時間などがどうしても設定しづらいです。
しっかり作り込むときはバイパスにしておくべきですが、とりあえず手短にミックスを完結させたいとなれば非常に有用なセクションです。
嬉しい機能
オーバーサンプリング

右上の点3つボタンからオーバーサンプリングを設定することが出来ます。
DRIVEセクション等で歪みを扱うので嬉しい機能なのですが、当然CPU負荷も激増します。

通常時であれば私の環境で5~6ぐらいと比較的落ち着いているのですが「x2」にすると倍増します。

是非購入前にデモを試してみて、ご自身の環境とマッチするかを試してみてください。
GUIのサイズ変更可能
画面の右下を触りながらドラッグすると画面の大きさを変えることが出来ます。
EQセクションで細かい作業をする場合に役に立ちますし、やはり画面が大きい方が見やすい!
プリセットが豊富で優秀
やはりここは外せません。
豊富で優秀なプリセットが大好きなんです。
見てみるとジャンルごとやアーティストプリセットがいくつも入っています。
そして何よりデフォルトで設定されてる「Modern Studio Vocal」がすでに優秀なのが一番ずるいと思います。
もうこれでええやん!ってなること請け合いです。
ボーカルミックスの最適解のひとつ
これは度肝を抜かれました。
Pulser Audio恐るべしです。
昨今色んなAIプラグインによってミックスが楽になると同時に、自分であれこれ調整する楽しみが減ってきたような気がしていました。
そんな中、簡単操作とは言え、自分であれこれ調整するタイプのオールインワンプロセッサーは非常に頼もしく映ります。
これでダメなら録音からやり直そうと思えるぐらいの信頼をしてしまいました。
もちろんノイズ除去やピッチ修正などの下処理は別で行う必要がありますが、このプラグインはそんなボーカルミックスにおける最適解のひとつなのではないかと思います。
このブログ記事が、皆さんの音楽制作に役立つ情報を提供できることを願っています。
さらに詳しい情報や、ご意見ご感想があればぜひコメントをお待ちしています。